私は,マインドフルネス作業療法(MBOT)の研究を行っています。ひとは,MBOTの経験を通して変化していくものです。私自身そうでした。では,私は生まれ変わった!?違う自分になったのでしょうか!?今回は,MBOTの経験を通して気づいたことを,「変化していく私は何者」というテーマでお話ししようと思います。
1.おさらい -MBOTの過程-
先行研究から,MBOTを実施した際に対象者は,①導入されたMBOTへの反応,②治療的な反応,③在り方の探索,という3つのフェーズを体験することになります.また,それぞれのフェーズではマインドフルネスを促進するポジティブな要素とマインドフルネスの促進を阻害し危機をもたらすネガティブな要素があり,対象者はそれぞれの間を揺れ動きながら,次のフェーズに止揚していきます.この時の促進する要素がいわゆる「効果」というものになります.また,フェーズ2とフェーズ3の間には,基本に戻ることや仲間の存在が必要であることが分かっています.
参照:織田靖史, 京極真, 西岡由江, & 宮崎洋一. (2017). 感情調節困難患者がマインドフルネス作業療法 (MBOT) を実施した際の内的体験の解明. 精神科治療学, 32(1), 129-137.
参照:織田靖史, 京極真, 西岡由江, & 宮崎洋一. (2017). 感情調節困難患者がマインドフルネス作業療法 (MBOT) を実施した際の内的体験の解明. 精神科治療学, 32(1), 129-137.
MBOTを通して対象者は,このような経験をすることが分かっています。その経験は,人に様々な変化をもたらします。その代表的なものが,価値観の変容です。MBOTは最終段階として人の価値観の変容をもたらすことにつながります。
2.変化する自分
この変化は,自分に対して苦しみをもたらします。自分が変化するということは,今までの自分自身ではいられない,ある意味「今までの自分自身を否定」し,新しい価値を取り入れながら止揚(アウフヘーベン)することにつながるからです。この自己否定,今までの自分でいられない,自分から離れるということは,安定していた自己に揺らぎをもたらし,そこから引き剥がされるという一種の傷つき体験をもたらします。そのこともあり,第3フェーズでは,実存の危機という自分を縛る思考が浮上/発生したり,生き方を支配する問題が露呈したりすることを経験します。このような体験をしながらも,基本に戻りそれに忠実にMBOTを実施することで「今ここ」のリアルな感覚から離れずに,気づきを進めていきやがて命と出会います。「今生きているんだ」ということを実感して,人生観の再構築,生き方が変化するということを経験します。
ある意味,人が変わったかのような価値観の転換。この変化は,自分自身や周囲の人に大きなインパクトを与えます。価値観の転換は,先にも述べたように自分自身に痛みをもたらすことがありますし,周囲にはその言動の変化に戸惑いを向けられることもあるでしょう。時には,それまで価値を共有していた仲間からの批判にさらされることもあるかもしれません。同調意識や安定を求め変化を拒む意識はいつの時代にも共通してあるものです。また,その影響で,一貫性のある人やブレない人を尊ぶ風潮があることも事実です。そこで,変化を経験することは,自己内での傷つきやそれに伴う自己矛盾につながる可能性,また他者との関係性の中で摩擦が生じる可能性,につながる可能性があります。
3.点で見るのか線で見るのか?
「A」ということを主張していたある人が,ある日「B」ということを主張したとします。皆さん,どうお感じになりますか?主張「B」が,主張「A」を包括している場合やそこから発展したことがわかる場合には,まだ受け入れられるのかもしれませんが,主張「B」が主張「A」と対立する場合には,戸惑いを感じ,場合によっては「前と違うじゃないか?」と違和感を感じ,発展して怒りを感じることすらあるかもしれません。「どっちの本当なの!?」となるのかもしれません。
私たちは,「今ここで」の瞬間,瞬間を生きています。どんなに頑張っても,未来を生きることはできず,過去を生きることもできません。ですから,その主張やその基盤となる価値観もその瞬間,瞬間のものであると言えます。そして,それをつなぐものが「時間」ということになります。その瞬間,瞬間という「点」は,時間によってつながれていき「線」となります。
しかし,私たちは瞬間,瞬間を生きていますので,その時のその人の言動を受けて,その情報を処理し様々な判断をします。したがって,主張「A」から主張「B」への変化を点でとらえて矛盾ととらえてしまうこともあるのかもしれません。
では,「線」で見るとはどういうことでしょう?
私たちは,時間の流れを見る(確認する)ことはできません。しかし,それを感じることはできます。どう感じているのか?それは,「経験」を通して感じると言えるでしょう。「今ここ」の瞬間,瞬間を生きている私たちは,瞬間,瞬間に自分の身体を通して感じ,受け入れ実感する「経験」を通して,「今ここ」とつながっています。その「経験」は,「時間」という線により過去や未来とつながり,ストーリーを紡ぎだし,他者のストーリーとの織りなすあやを通して面,空間へと広がり「場」を生み出していきます。
4.「経験」にこそ本質がある
少なくとも,私たちは「経験」により生まれるストーリーにより,瞬間,瞬間を生きる自分自身をつないでいると言えるでしょう。私が私であるという自己同一性は,その瞬間,瞬間の価値観の一貫性,統一性ではなく,この「経験」また「経験」の移り変わりにこそ本質があると言えるのではないでしょうか。人は変わらなくても,変わっても,それぞれの瞬間瞬間の「経験」つながりであるストーリーにこそ本質があると考えています。
しかし,日常において私たちは「経験」について無意識であることが多いです。習慣化した作業は,無意識的にこなしていることが多いことでしょう。忙しい現代社会の中で,たくさんのタスクをこなすことが求められる日常を乗り切るためには,省エネでそこに認知的負荷や体力などのエネルギーリソースを注がないことが適応的な手段になっています。しかし,私たちが,本質である「経験」に無自覚になっていることは,私たち自身の確信を失うことにつながる危険性もあるのではないかと思います。だからこそ,MBOTを通して,「今ここ」の瞬間瞬間の「経験」に意識を向け,それを判断することなく(無批判に)反応せずに,そのまま受け入れ味わうことが重要であるといえるでしょう。
5.まとめ
人の「本質」は,「経験」にあると考えられます。したがって,「今ここ」で,自分自身(その人自身)が感じている「経験」に焦点化し,そのつながり(変化)のストーリーにこそ,その人の本質があると尊重することがポイントになるでしょう。
0 件のコメント :
コメントを投稿