第12回 精神科治療学賞 優秀賞受賞 ご報告およびお礼

この度,星和書店の精神科治療学に掲載された

「感情調節困難患者へのマインドフルネス作業療法の効果検証-シングルシステムデザインを用いて-」《織田靖史,京極真,西岡由江,宮崎洋一:精神科治療学,30(11);1523-1521,2015.》

の論文が、「第12回 精神科治療学賞 優秀賞」をいただきました。

発表および選考理由は、精神科治療学31(1),2016の巻頭に掲載されています。

今回の論文は,感情調節が困難なことから,感情が走り出すことで自分でも思ってもみなかった後で後悔するような行動をとってしまい,自分や周囲の(大切な)ひとを傷つけ,生きづらさを抱えるようなひとびとに対して何かできることはないのか?という疑問から出発しました.そのような方に,自分の価値観やその時の認知などで物事を断定的に判断するのではなく,「あるがままに受け止め,受け入れ,抱える」というマインドフルネスは有効であると思われました.一方で,マインドフルネスを日本の精神科の臨床現場で実行するには,マンパワー(専門家)の不足や診療報酬上の問題があり,なかなか現実的ではないと思われました.そこで,一般的に普及している作業療法をそのような現実的問題で困っている方々に臨床活用ができないものか,と考えました.そのような思考の過程から,作業療法の中にあるマインドフルネスの要素に注目し,マインドフルネスを作業療法と組み合わせて新たなプログラムを開発するという試みをしました.こうして,マインドフルネス作業療法(MBOT)は誕生したのです.当初,この方法は,非常にリスキーな試みのように思えました.なぜなら,一般的にそのような感情調節が困難で,行動に移しやすく,また傷つきやすい対象者は,ドロップアウトの危険性が高く,治療継続が難しく,また進展もあまり見られないとされていたからです.しかも,作業療法はそれまで,感情調節困難な対象者の代表的な疾患であるボーダーライン・パーソナリティ・ディスオーダーの治療ガイドラインに出ていない現状があったからです.しかし,このわたしの心配は杞憂に終わりました.MBOTを臨床で実践する中で,わたしは確実な手ごたえを感じました.この自信は,プログラムに参加したみなさんと共有できました.ある方は家でも実践し,ある方は主治医にこのプログラムの有用性を語り,ある方はプログラムで得たことをほかのスタッフや実習生に講義するといったように波及していきました.これからのわたしの課題は,より効果的なMBOTの臨床運用のために開発を続けることです.医療者や当事者本人が,やりやすいように,理解しやすいように,研究を続けていきます.

今回の受賞に際し,編集委員会の先生方、星和書店の編集担当さんには、本当にお世話になりました。こころからお礼申し上げます.特に編集委員会の先生の選評では,MBOTの開発過程でのわたしの大切にしていたポイントを的確にご指摘いただき,またその思いをくんでいただけたことは嬉しかったです.その慧眼に敬意を表します.

次に,近森病院総合心療センターの先生方やデイケアスタッフ、作業療法室の皆様、職員の皆様、さらにマインドフルネスと引き合わせていただいた遊佐先生には多くの御支援をいただきました。

また、京極先生,籔脇先生をはじめ、吉備国際大学の先生方ならびに京極研究室の皆様に、多くのご指摘やご指導をいただき,MBOTはブラッシュアップすることができました。

さらに,山根先生や北山先生などの作業療法士の師である大先輩には素晴らしい考えるヒントをいただきました。

くわえて、勉強会を一緒に行う仲間の存在は、どんなにか心強いことでした。

文句も我慢してくれた家族にもありがとうと伝えたいと思います。

何より、この研究にご参加いただきました皆様に感謝いたします。この研究が少しでも困っている方のお役に立てると幸いです。

もともと、作業療法では,小林先生や山根先生、香山先生などが指摘されているように身体性に注目し,身体性を重視したプログラムを取り入れていました。身体性の観点は,最近ではさらに重視されており、うつ病作業療法研究会の高橋さん、早坂さん、田中さんをはじめ、京都大学の石川さんのように,身体性を重視した作業療法について実践や研究をされている方が増えています。また、マインドフルネスでは、広島の山路先生や横浜の魚岸さんが作業療法士として,積極的に取り組まれています。

今後は,そのような方々とも連携し、新しい知見をいただきたいと思います。
そして、先にも書いた通り,マインドフルネス作業療法が、より良く臨床活用できますように研究を続けていきたいと思いますm(_ _)m

今後とも、よろしくお願いいたしますm(_ _)m
 

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