ところで,精神科医における方法としての作業と目的としての作業の関係性は,以下の図のように考えています.
図.精神科領域の作業療法における方法としての作業の利用と目的としての作業の利用のイメージ
このように,医療がかかわることの比重の多い急性期,回復期では,方法としての作業の利用が主になると考えられます.例えば,認知機能を上げるための作業の利用,体力を上げるための作業の利用,リラクゼーションのための作業の利用,自己理解のための作業の利用,ひとになれるための集団を用いた作業の利用などです.いろいろなアクティビティが選択され,それをとおして機能の向上や社会生活のための能力の復帰が図られます.いわば,病気によって低下した能力のリコンディショニングのための作業の利用といったイメージでしょうか.最近では,これに加えて認知機能リハなど能力の開発も注目されています.いろいろな作業をとおしながら,心身を整えていく事を目指します.
次に,地域で生活する生活期では,自分のしたいこと,するべきこと,することが期待されていることの実現を図ります.この時期では,作業それ自体ができるという,作業の可能化が重視されます.そのために目的としての作業の利用や環境調整が重視される時期でしょう.特に,作業機能障害に対する介入が重視される時期でもあると思われます.これからの時代により重視される分野であることは間違いありません.
最後に予防ですが,ここではバランスよく作業を利用することが求められます.したいことができる,やるべきことができる,期待されている役割をこなせる,などは,健康で幸福に生きるためには大切なことであると思います.一方で,病気やケガなどのリスクに対しては,機能に対して作業を方法的に利用してあぽろーちすることが有効であると考えられる.例えば,問題なくやるべき作業ができ,したいことも達成され,周囲の期待ににも応えているときには,社会的にも個人的にも充実している状態であると言えるでしょう.その場合,幸福感は向上し,寿命も延びることでしょう.それでも,ストレスがかかった時には,有酸素運動をしたり,趣味に没頭したり,気晴らしに土いじりをしたり,ぐっすり眠ったりしながら,ストレスを開放(発散)していくのです.このバランスが大切でしょう.
さて,このとき方法としての作業を実施する場合には,どんな理論,臨床方針に基づいて行うのかということが重要になります.視点を固定して,その視点から評価し,作業を選択し,実施することで臨床効果が得られやすくなるでしょう.なぜなら,視点を固定することで,クライエントと話し合う際にも,理解が得られやすいのではないかと考えられるからです.くわえて,チーム医療を推進する上でも有利となると考えられるからです.その意味では,できたら,病院やユニット単位で,自分たちの臨床を行うベースとなる理論を選定できたらいいのかもしれません.その理論の上で,方法としての作業を,クライエントと主に対話の上で選択し,遂行し振り返るのです.選択される理論は,①エビデンスのあるもの,②理論を具体的に実践する際のスタッフの技能が高いもの,③(環境的)条件にあったもの,④組織の方針にあったもの,⑤社会的ニーズ(潜在的クライエントのニーズ),という中で見合うものを選択していく必要があると思われます.
少し話がそれましたが,ある理論に基づいた方法的作業の利用が展開されることが望まれるでしょう.
一方で,目的としての作業の利用には,作業療法独自の理論に基づいて実施されるとよいでしょう.勿論,方法としての作業の利用も作業療法の一部ではあるため,作業療法の理論はそれを包括したものではあるものの,目的炉しての作業の利用ではよりそれを終始した視点になるものと考えられます.
その根本には,作業療法の哲学があるのでしょう.わたしたちは,どういった枠組みで何を行うのかを意識しながら,臨床を遂行できると良いのではないかと考えています.
と,ここまで書いて,なんだか当たり前のことを書いているな.と思いました.が,自分への覚書のために,先人たちの智慧を意識するためにここに書いておきます.そして,もしかしたら誰かの役に立てばいいなと思うので公開させていただきます.
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