日本作業療法士協会の定義が33年ぶりに改定されたことについては,先のブログ(「改定された作業療法の定義とMBOTが果たす役割」詳細はこちら)でご紹介しました.この定義の改定により,世界標準的なものになったと思っています.ちなみに定義は,以下の通りです.
日本作業療法士協会 作業療法の定義(改定案)作業療法は、人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、福祉、教育、職業などの領域で行われる、作業に焦点を当てた治療、指導、援助である。作業とは、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す。(註釈)(http://www.jaot.or.jp/wp-content/uploads/2018/05/H30gian-4.pdf)
・作業療法は「人は作業を通して健康や幸福になる」という基本理念と学術的根拠に基づいて行われる。
・作業療法の対象となる人々とは、身体、精神、発達、高齢期の障害や、環境への不適応により、日々の 作業に困難が生じている、またはそれが予測される人や集団を指す。
・作業には、日常生活活動、家事、仕事、趣味、遊び、対人交流、休養など、人が営む生活行為と、それを行うのに必要な心身の活動が含まれる。
・作業には、人々ができるようになりたいこと、できる必要があること、できることが期待されていることなど、個別的な目的や価値が含まれる。
・作業に焦点を当てた実践には、心身機能の回復、維持、あるいは低下を予防する手段としての作業の利用と、その作業自体を練習し、できるようにしていくという目的としての作業の利用、およびこれらを達成するための環境への働きかけが含まれる。
出典:日本作業療法士協会ホームページより (太字,下線は筆者による.
注釈も併せて読むと,本当に作業療法が理解しやすくなります.そして,作業療法士は何をするのか,どこを目指すのかも,より分かりやすくなりました.本当にありがたいことです.関係者の努力に感謝申し上げます.
ところで,この定義の注釈には,
作業に焦点を当てた実践には、心身機能の回復、維持、あるいは低下を予防する手段としての作業の利用と、その作業自体を練習し、できるようにしていくという目的としての作業の利用、およびこれらを達成するための環境への働きかけが含まれる。と書かれています.このうち,作業の利用については,①手段としての作業の利用と,②目的としての作業の利用が挙げられています.
ここで,「目的としての作業の利用」とは,どういうものでしょうか?それは,注釈に示されている通り「その作業自体を練習し、できるようにしていく」ものであることが理解できます.例えば,仕事がしたいという希望を達成するために仕事という作業それ自体を練習しできるようになるといった具合です.このときの達成すべき作業は,①人々ができるようになりたいこと、②できる必要があること、③できることが期待されていることなど、個別的な目的や価値が含まれる作業になるでしょう.
では,「手段としての作業の利用」とはどんなものでしょうか?注釈では,「心身機能の回復、維持、あるいは低下を予防する」ものであると示されています.これは,医療の現場で行われる医療的リハビリテーションを実施上では,よく用いられているのではないかと思います.また,一般的にもそのイメージが浸透しており,理解しやすいものでしょう.
しかし,わたしは,作業の本質的にはもう一つの意味があると思います.それは,作業の持つ実存的な力です.ひとは,作業をとおして,わたしらしさに気づき,作業をとおして自分の存在に気づくのです.マインドフルネス作業療法(MBOT)では,作業の持つこの力に着目しています.ひとは,作業をとおして現実(リアルな)世界とつながる.そして,作業をとおして,自分を取り戻すのです.これは,ギリシャ時代から続き,またアーツ&クラフト運動や道徳療法の流れをくむ作業療法の源流ともいえる要素なのかもしれません.
わたしの考える「作業に焦点を当てた実践における作業の利用」について,下記の図のようにまとめてみました.
図の中にも記していますが.手段としての作業の利用における②,作業の実存的要素に着目した利用について,あるひとの言葉が忘れられません.その方はいいました.
今までは,「死んでいくわたし」を生きていた,今は「生きているわたし」を生きている「手段としての作業の利用」,そして「目的としての作業の利用」それぞれを使い分けながら,作業療法士として誰かのためになれれば幸いです.
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