無駄に反応せずに済ませられるための方法

 昨日は,『反応しない“コツ”について考える』(記事はこちら)という記事を書きました.ここでは,京極先生のブログの記事反応しない技術を身につけるコツ【人間関係&ストレス】』(詳しくはこちら)の内容から,①状況を把握すること,②戦略的に反応し過ぎないでいること,③その態度を持続させ定着させること,の大切さについて考察しています.特に,意識的であることの大切さを「ナイーブ」という言葉から展開しています.

 信念対立による対人関係のトラブルなどのストレスを生み出すような不都合を抱えている時には,とにかく反応し過ぎない,かといって我慢しすぎないことが大切です.反応し過ぎるとこころが苦しくなりますし,我慢しすぎるとこれはこれで閉塞感を生んでしまします.これが進むと,自分で自分のこころを欺き,自分のこころの反応を許せなくなってしまいます.これは地獄です.

 これに対して,京極先生は笑うことの大切さを説かれています.


 イラつきやゲンナリは心が憂鬱に反応していますが、笑いは冷笑かもしれませんがストレスは感じにくいはずです。(京極先生ブログ反応しない技術を身につけるコツ【人間関係&ストレス】』(詳しくはこちら)より

 確かに,笑うことで気分は変化します.心理学の研究では,表情は感情に影響を及ぼすことが分かっています.(STRACK, Fritz; MARTIN, Leonard L.; STEPPER, Sabine. Inhibiting and facilitating conditions of the human smile: a nonobtrusive test of the facial feedback hypothesis. Journal of personality and social psychology, 1988, 54.5: 768.)ひとは,笑顔を作ることで脳をだますことができるのです.

 そういった方法とともに,


信念対立がしんどいときは、こうした心の反応が問題の大きさに比べて大きすぎないか、と問う必要があるのです。(京極先生ブログ反応しない技術を身につけるコツ【人間関係&ストレス】』(詳しくはこちら)より

と述べられています.これは,重要な指摘だと思います.起こった現象(何らかの出来事)に対するこころの反応が妥当であるかを問うことで,すなわち出来事に対するこころの反応が冷静に見て,または他者から見て,一般的に妥当であるかを知ることで,過剰な反応を抑制しそれによって被るこころの負担を回避するという意味合いがあるのだと思います.簡単に言うと,「(周囲からしたら,もしくは普段の自分からしたらちょっとのことと思えるような出来事で)こころが反応し過ぎてしんどくなるのを防ぐ」ということになります.

 ですから,わたしたちは,何かトラブルに反応してこころが揺れている時には,①冷静になって普段の自分と同じ状態なのかを見つめ直すこと,②他者に自分の反応に対して意見を求めること,が必要であるということになります.

 しかし,ここで大きな問題があるのです!!

 少しイメージしてみてください.信念対立がベースにある対人関係のトラブルなどの問題にさらされて消耗し,どうしようもなくしんどくて感情が揺れている時には,反応せずにはいられないというのが人間の性なのです.

 これは人間の認知機能の特徴に原因があります.ひとの認知機能には危険察知をする役割も持ています.これは動物としては重要な役割で,不安や恐怖という感情を増幅させて,察知した(予測させる)危機に対して早く,そして強く回避することで生命の維持に有利に働くのです.これは,「闘争ー逃避行動」につながります.すなわち,こころが反応するのは,危機を回避し生き延びるためには重要な機能であるのです.したがって,余裕のない状態,危機に近づいて状態であれば,この機能は有効に働きます.例えば,ここがジャングルだったら,戦場だったら,というように安全性が脅かされている状況(場面や場所)であれば,この機能は最大限敏感に働いていた方が命を長らえるうえでは有効な戦略であると言えます.

 一方で,平和な世の中であれば,そこまでの敏感さは,すり減らす要因ともいえるのです.むしろ過敏でありすぎることは,効果的な生活を送れなくなってしまうことになるでしょう.道を歩いていて,見えるもの見えるものに,反応してジャンプし,横っ飛びし,伏せ,立ち止まり,ひたすらダッシュし,引き返していたら,目的地に着かないどころか,すぐに疲れてしまいます.周りから見たら,滑稽でしかないでしょう.しかし,本人はいたって真面目,大真面目なのです.なぜなら,主観的には魑魅魍魎の世界を過ごしているのですから・・・.

 この敏感さは,人間関係には大きな武器にもなります.例えば,相手の態度や表情のわずかな変化にも気付きます.しかも,ネガティブな視点から捉えることが多いので,ひとに対して最大限に気を使うことができます.ひとに対する不安から親切になれるのです.一方で,この敏感さという武器は諸刃の剣です.返す刀で,自分自身も傷つけてしまいます.とにかく,気づかないうちに自分自身を消耗させてしまうのです.そして,消耗してしまうとさらに敏感さ(対人関係における変化を感じるセンサー)は研ぎ澄まされていきます.そうするとさらに反応してしまい・・・.という悪循環を招きます.

 では,どうすれば「敏感さ」という武器を上手く使いこなせることができるのでしょうか?

 ここからはわたしの臨床経験上の対策です(弁証法的行動療法:DBTを参考にしています).結論を言うと,必要なのは「体力」です.過敏になっているなと感じたら,なによりもまずは寝ることです!!ひとは疲れてくると過敏になっていくことは先に述べたとおりです.疲れてくると,感覚が研ぎ澄まされてきます.そして,少しでも早く危険を察知しようと探し出します.そして,鋭敏になったそのセンサーに何らかの刺激を少しでも感じたら,その瞬間に逃走ー逃避モードに突入します.最高レベルの臨戦モードに入るのです.もうアラームが鳴りっぱなしで,頭が忙しく回転し続けます.そして感情に振り回されます.こうなると,なかなか手が付けられなくなってしまいます.ですから,早めに疲れに気づく必要があるのです.疲れへの気づき方としては,普段流せていること,普段気にせずに流せていることが流せなくなったら,これは疲れている証拠です.(普段気にしないでいられている)ひとの目が気になること,誰かの言葉がなんかひっかかってリフレインすること,過去の嫌な出来事がふと思い浮かんできてなかなか消えないこと,などがあれば疲れがたまってきているサインです.すぐに寝ましょう!!なかなか眠れない時には,からだを休めるだけでもいいでしょう.寝ないといけないことに囚われず,からだを休めることが大切だと思ってください.なかなか眠りにつけない時や眠れても,多夢(特に悪夢),起きてもスッキリせずボーとしている,眠り足りない感じがする,途中覚醒して次に寝付けない,などがあれば興奮している(交感神経優位な)状態であるのかも知れません.手足に冷水シャワーをする,あくびをする,などの方法により神経のスイッチを切り替える方略が役に立つこともあるでしょう.
 次に,リラックスすることです.これには五感を使うことが推奨されています.まず,視覚.大自然を見る,優れた美術品を見るなど,視覚を通してくつろぐこと.そして,聴覚,音楽を聴く,川のせせらぎの音を聴く,浜辺の波の音を聴くなど音を楽しむこと.嗅覚では,アロマの香りをかぐ,お香の香りをかぐ,自然の匂いをかぐ,などの匂いに親しむこと.そして味覚.おいしいものを味わう,スープを味わうなど味覚に心躍らせる,味覚にノスタルジーを感じること.そして触覚.ふらふらしたものに触れたり,あったかいものに触れたり,触ることで安心しホッとすること.などをとおして,安心することで心が安定すると言われています.
 他にも楽しいイベントリストを作っておき,それをすることで気分を切り替えることなども有効であるでしょう.

 とはいえ,どうしょうもなく追い詰まった時にはどうすればいいのか??この時には,少しでも冷静さを取り戻すことが必要となります.アラームで一杯になっている頭のスペースに,ほんのわずかでも空白の冷静さが入るスペースを作るのです.その方法としては,とにかく気をそらす(注意を対象となっている出来事,ひと以外のものに向ける)ことが重要でしょう.例えば,強い刺激を与える(氷を握ってみる),いったんストップしてみる(からだの動きや呼吸を止めてみる),激しい運動をする,などです.一瞬でもっころにスペースができると,冷静なる隙間ができます.とにかく,反応をしすぎないことです.そして,時間を稼ぐことです.感情は,ずっと持続し続けるわけではありません.波のように(丁度腹痛の時の痛みの波のように)強くなったり,弱まったりを繰り返しながら,やがて消えていくのです.ですから,とにかく時間を稼ぐのです.くわえて,その間何とか抱えられるだけのエネルギーを蓄えるのです.そのためには,寝ること,そして普段から規則正しい生活や食事,運動をしてからだを整えることが大切でしょう.とにかく,反応し過ぎないためには「寝ること=十分な睡眠」が必要となるのです.

 ですから,いい臨床をするためには,いい仕事をするためには,有効な人間関係の維持のためには,「よく眠る」ということがポイントなります.ヤバいなと感じたら,有給休暇をとってでも,眠ることが大切なのです.と,職場でつぶやくわたしでした.



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