1.注目されているダイアローグ
最近,ダイアローグが注目されています.精神科でもオープンダイアローグが注目されており,対話の重要性が見直されてきています.近代以降,ディベートやディスカッションが意思決定や認識の正しさの基盤としての中心的な方法でありました.しかし,価値観の多様化や信念の先鋭化による対立などが社会の抱える大きな問題となっている現代では,ディベートやディスカッションによる近代的な価値の一本化,正義の統一化は難しくなっています.それどころか,価値の単一化や正義の意識の統一化は,対立する意見を打ち破り抹殺し,少数意見を排除することにつながってしまう危険性をはらんでしまいます.※それについては,昨日のブログ『自由のためのとらわれない生き方』(詳細はこちら)
その様な時代だからこそ,今「対話=ダイアローグ」が注目されているのです.一般的にディベートやディスカッションが「ひとつの正しいと考えられる(確からしい)答えを導き出す」ために行うのに対して,ダイアローグは「お互いに分かり合う,または自分で自分自身に気づく」ために行われます.今までの何かを打ち破って正しさを貫くのではなく,お互いを批判しあうことなく,受け入れるということになります.そして,ダイアローグのポイントは,①聞く(listening),②大事にする(respecting),③保留する(suspending),④出す(voicing)とされており,その種類はリフレクティブ(内省的)・ダイアローグとジェネレーティブ(生成的)・ダイアローグがあるとされています.(前野隆司,保井俊之:無意識と対話する方法―あなたと世界の難問を解決に導く「ダイアローグ」のすごい力,ワニ・プラス,東京,2017,pp38-45)
2.ダイアローグの4つのポイント
先にもご紹介したように,ダイアローグのポイントは,①聞く(listening),②大事にする(respecting),③保留する(suspending),④出す(voicing)であるとされています.①聞くに関して
これは「傾聴」と言った方がなじみやすいのではないかと思います.とにかく相手の話を批判したりアドヴァイスしたりせずにただ聴くことです.②大事にするに関して
尊重する・尊敬すると言っていいものです.相手の大切にしているもの,価値観,存在,尊厳を尊重するような在り方,態度ということになります.③保留するに関して
これは,相手の話したこと,自分の話すことに一切の価値判断(ジャッジメント)をせず,断定せずにただ話をその話のままに置いておくといったイメージになるでしょうか.現象(ここでは話)をあるがままにそのまま聴き,そのまま受け入れることを意味します.否定も肯定もせず,こんな話をしていると決めつけることもせず,ただ話しているそのひとが何を話したいのかを想像しながら話をそのまま聴いているということになります.④出すに関して
これは,あるがままに表現するということになります.自分の中になるものを,自己評価せずにそのまま出すというところに集中するのです.自分の中にあるものを「場に置いてくる」と言ったイメージでしょうか.そこには所有はありません.反射して自分に返ってくることもあるかもしれません.そういった意味においては自分への語りかけとも言えるのかもしれません.3.ダイアローグを成功させるためのトレーニング
先に述べた4つの態度は,信念対立解明アプローチの解明態度や解明交流法と近いものがあるのではないかと考えています.ですから,信念対立解明アプローチのトレーニングが参考になるでしょう.吉備国際大学の京極真先生が開発した信念対立解明アプローチですが,その具体的な実施方法は整理されてきており,①感情を安定させる(情緒的安定),②今,その場で起こっている現象を徹底的に明らかにする,③それを基に対策を考え共有する,といった手順になっているようです.
これを参考にすると,感情を安定させるための手段を手に入れることが第1のポイントであると思います.
例1)落ち着くため(感情と安定させるため)の道具箱
わたしは,感情を安定させるために,「感情を安定させるための道具箱」を作成することを提案します.ひとはなにかをすることで落ち着きを取り戻します.ですから,調子のよい安定している時に,何をしたらいいのか書き出しておき,実際の場面で実験してみるのです.そして,感情の波が激しくなる前に早期に落ち着けるようにアレンジしていきます.
例2)普段の生活に瞑想を取り入れる
他にも,マインドフルネス・スキルトレーニングやMBOTに取り組むのも1つかもしれません.しかし,これは普段からトレーニングしておく必要があります.普段トレーニングをしていなくて,しんどい場面でのみ瞑想しようとすると,しんどい場面と瞑想が結びつき,瞑想しようとするだけでしんどい場面が惹起されてしまうというネガティブ循環に陥る可能性がります.例3)聴く態度(話す態度)のトレーニング
それを応用した聴く態度,話す態度のトレーニングをご紹介したいと思います.これは,直接的なダイアローグのトレーニングになるのではないかと考えているところです.実際,MBOTの研修で好評を得ています.具体的には,順番に話す人を決めておき,時間を区切って話をしてもらう.話はテーマを決めてもいいし,近況報告でもいいし,自分史を書いてもらった後にそれを読むなど他のアクティビティとリンクさせてもいいし,思いつくままに自由に話してもらってもいい,と思います.僕は,MBOTやマインドフルネス・スキルトレーニングで行うシェアリングでも同じように行うことが多いです.
次に,話している人が自分の話をしている時に,聴く人はそれをただ聴きます.ただ聴くということは,頷いたり,「ふんふん」「そうそう」などの相槌を入れたりしない,アドバイスや感想を言わない,話の途中で口を挟まないということで,一切リアクションせずに,声を発さずに,表情も変えずに「本当に場を共有してただ話を聴くだけにする」ということです.
普段こういうコミュニケーションはとらないため不安になるとは思いますが,トレーニングですし,実験と思って取り組んでみてください.経験者からは「意外と安心できる」と感想を聞くことが多いです.ただ話を聴いてもらえるし,侵襲性を感じない良さがあるようです.
4.まとめ
様々な対立や複雑化した問題にあふれている現代社会では,近代のようなディベートやディスカッションといった意思決定から,ダイアローグという方法が見直されています.ダイアローグは,聴く,相手を尊重する,いったん判断を停止(アポケー)する,ありのまま言葉にする,ことがポイントになります.そのためには,こころを落ち着ける方法を身につける,瞑想をする,(マインドフルに)聴く態度のトレーニングをする,というトレーニング方法があります.信念対立解明アプローチで明らかになっている知見を取り入れることも意味があると思われます.お互いを理解しあう,自由の相互承認のためにダイアローグをはじめませんか.
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