目標を考えるうえで大切にしていること

 先日の豪雨災害では,多くの犠牲がありました.本当に悲しいことです,こころからご冥福をお祈り申し上げます.また,被災された方も多くいらっしゃいます.こころからお見舞い申し上げます.連日の猛暑の中,復旧作業にご尽力されていらっしゃるかたにこころから敬意を表します.

 多くの災いをもたらした雨が過ぎ去ると,次は猛暑です.自然現象だから仕方がないとはいえ,何だかやるせない気分になります.ひとは,コントロール不能の事態に対してストレスを抱きやすいのでしょう.

 このコントロール不能の事態に対してストレスを抱きやすいというひとの傾向は,生活をするうえで重要なポイントであるとわたしは考えています.ひとは,思い通りにいかないことに不満を募らせ,わからないことに不安をおぼえ,自らの力の及ばなさに不憫さを感じる存在であるように思います.特に,情緒的な反応が優位な(豊かな)ひとはそうなのはないでしょうか.

 ひとが自分の思い通りにいかないとき,これは例えば,人間関係でトラブルを抱えている時や「しよう(したい)」と思ったことがうまくできないときなどでしょうが,ひとはストレスと同時に傷つきを感じやすくなると言われています(Linehan ,1993).また,私自身の経験から,今回の大災害のように,自分の想定外のトラブルや不幸が自身を襲った時に,ひとはその時間の流れが止まったようになるような反応が起こるようにも感じられることがありました.

 さて,ここで今日の話題である「目標を考えるとき」について検討してみたいと思います.

 目標とは,辞書によると,

 ①そこまで行こう、なしとげようとして設けた目当て。 「年内完成を-にする」 「 -を掲げる」② 射撃などの、的。 「 -に命中する」③ 目じるし。 「車上にて弗と目につきしは両替屋の-なり/千山万水 乙羽」 〔類義の語に「目的」があるが、「目的」はその実現に向けて行為が行われる事柄(対象)の意を表す。それに対して「目標」はそこまで到達しようと定めたところの意を表す〕                     (出典:三省堂 大辞林第三版より

とされています.したがって,作業療法における目標とは,「なにか″する”ことをなしとげようとして設けた目当て」ということになります.これは,未来へ向かう前向きなことですし,作業療法において最も大切なポイントとなるでしょう.ですから,「いつまでに,どうなっていたいのか?」を詳細に設定する必要があります.
 
 一方で,作業療法士が対象とするのは,作業に関係した問題である「作業機能障害」です.この作業機能障害には,作業不均衡,作業疎外,作業剥奪,作業周縁化の4種類があると言われています(寺岡ら,2013).作業不均衡とは作業のバランスが崩れている状態であり,作業疎外とはする作業に自分自身が価値を見いだせない状態であり,作業剥奪とは何らかの要因で作業ができない状態であり,作業周縁化は自分がしている作業に周りが価値を見出しくてくれない状態である.以上から考えると,作業機能障害を抱えた状態は,「自分の思い通りにいかないコントロール不能に近い状態である」といえるでしょう.

 このような事態が発生している中で,未来について話していくことになるわけです.そのひとを襲った事態の大きさは,絶対的なものではなく,そのひとごとに違う相対的な者になるでしょう.したがって,同じような事態が起こったとしても,それによる反応はひとそれぞれとなります.いいか?悪いか?と言う問題ではなく,物事の受け取り方は,人それぞれだし,置かれた立場,役割,それまで培った価値観,その時の環境によって変わるものですし,関係性に依存するものなのでしょう.

 ここまで,考えてくると,目標を考えるうえでのポイントが見えてくるように思います.1つは,時間の流れの違いがある可能性があること.特に,これは自分でも気づかないうちに起こっている可能性があります.時間は誰もに等しく共通に流れているものとされています.しかし,主観的には,「ひとはだれもが同じ時間の流れの中で過ごしていない」ということを意識しておく必要があるでしょう.
 2つめは,目標を設定するという変化は,ひとを傷付ける可能性があるということです.もちろん,多くの場合目標は,ひとに元気と勇気を与えます.「あそこまでがんばろう」「こうしたらああなれるだろうから」という思いは,ひとを前向きにしてくれますし,その行動(作業)に意味と価値を与えてくれます.それが次の活力につながる好循環となるでしょう.これは作業療法だけではなく,スポーツでも,勉強でも,家事でも,日常生活全般に言えることでしょう.わたしたちは新しい行動様式(スキル)を学習する際に実力よりも少し高いレベルの挑戦できるような目標を設定し達成することで学習効果を高めるのです.しかし,思い通りのいかない出来事に圧倒され,自尊心を傷付け,その問題にとらわれている時,そしてコントロールする以前に物事に対峙することに諦めを感じてしまっている状態に陥っている際には,前向きになろうとすることはできません.仮に,前向きになろうとしてもそれは,建設的ではなく,「今の自分ではダメだから,変わりたい!!」といったように自己否定を含むことになりがちです.その様な言葉の裏にある分麻薬に配慮し,言葉面ではなく,その裏にあるものを見ていく必要があるのでしょう.このように,受容と変化のバランスをとること,言葉の裏にある思いを感じることがポイントではないでしょうか.

 ここまで,目標を考えるうえでのポイントを考察してみました.次のブログで,文脈を読むことについて再度考察してみたいと思います.
 





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