スルー力を向上するためのトレーニング

 京極先生のブログで「スルーのコツ」について紹介されていました.詳しくはこちら.

 このブログで指摘されている通り,スルー力は重要であると言われています.このスルー力というのは,「問題を真正面から受け取り,とらわれることなくいられる能力」ということができるのかなと思います.

 京極先生は,スルー力のコツとして「相対化する」という方法を紹介されています.
 
 つまり、絶対に間違っている、とか、絶対に正しい、などの考え方はいったん脇において、間違いも正しいも立場によって変わるよね、という感度を基底におくのです。
確かに,相対化すると,問題が持つ価値が平均化し,問題が問題として成り立たなくなります.いわゆる,落ち着いて後から考えてみると,「なんであんなことで悩んでいたんだろ??」ってことになるような感じですね.相対化って素晴らし方法ですね!!
 しか~し!!相対化は,かなり効果的な方法だけに副作用もあります.よく効く薬は,必ず副作用を伴うものなのです.相対化する場合,その副作用の一つに「感情」があります.なんで,「あんなに悩んでいたんだろう」と考えると,過去の自分がバカバカしくなり,腹が立つ!!過去の自分を否定する思考が,(自己愛的な)感情を刺激するのです.また,相対化して,自分では問題を解明し,問題を解消していたのに,相手に会ってまた,問題を投げかけられることで感情的に揺さぶられ,スルーしようとすると(心理的に依存され)しがみつかれて消耗してしまった.などの事例が想定され,実際に見受けられます.このような事例は,自分を守るための防衛機制や他者との関係性における対人行動パターンからなかなか修正することは難しいとされています.
 
 では,相対化する能力を安全に高めるためにはどのような能力が必要なのか?

 まず,第一に「自己への執着から離れることである」とブッタの時代から言われています.ブッタは,2本の矢の話をし,自己への執着の危うさについて諭したと言われています.これについて,例えば矢が体に刺さったときを思い浮かべます.このとき,1本目の矢の痛み,これは矢が刺さったことの生理的な痛みですが,これはどうすることもできません.しかし,ひとは次の痛みを経験することになります.これが2本目の痛みです.この痛みは,矢が刺さったことにまつわる考えからおこるものです.誰が矢を放ったのか?どうして自分が撃たれまいといけないのか?これから自分はどうなるのか?などという考えがもたらす感情です.これは,「自分」という存在に執着することで起こると言われています.とにかく,「俺が俺が」「わたしがわたしが」ということに執着すると,他者との対峙をより強く出してしまうことになるのです.

 第二に「たくさん空想すること」です.「自分への執着を外し,自由になったうえで」空想を通して,相手の体験を追体験するのです.そうすることで,相手になりきって考えることができ,自分の身体を通して体験したことに基づく経験ができるため,相対化しやすくなるでしょう.これを行うことで,問題と対峙した際に思考優位になりネガティブループに入りそうな自分を,体感を通して現実に引きとどめておいてくれることにつながるのではないかと考えられます.

 第三に「孤独にならないこと」です.多くの精神科の研究では,孤独なることは大きな負因をなっています.例えば,自殺などの行動化の問題やうつの問題において,孤独はそれらを衝動的に行動させたり悪化させる要因となるのです.そのため,適切な言葉を持って伝えることや他者と時間や場を共有することが重要であるとされています.

 以上の3点をトレーニングするためには,以前にブログでも紹介しました(詳しくはこちら)ネガティブ ケイパビリティ(Negative Capability)の能力を高めていることが重要であると思います.ネガティブ ケイパビリティとは,「なにものでもなくいられる力:異質なものを受容する力としての自己解放力」(相良陽一郎,中村 晃,酒井志延:本学学生の社会人力を高めることについての研究ーSPI2解答能力の向上を考えながらー, 千葉商大紀要 50.2 (2013): 13-38.と定義されるものです.この力は,スルー力のポイントである相対性と関係しているように考えられます.
 では,そのために何をするのか?具体的なトレーニング方法として,私はマインドフルネスや,マインドフルネス作業療法(MBOT)をお勧めします.マインドフルネスやマインドフルネス作業療法は,「今にとどまり,自分に立ち現われるすべての現象をあるがままに受け止め受け入れる」ことを目指します.わたしの研究では,MBOTの過程を通して対象者は「実存的な気づき」などの「生き方の更新」に至ることがわかっています.悩みながらも,すべてを受容し,変化するのです.織田靖史, 京極真, 西岡由江, & 宮崎洋一. (2017). 感情調節困難患者がマインドフルネス作業療法 (MBOT) を実施した際の内的体験の解明. 精神科治療学32(1), 129-137.それは,ネガティブ ケイパビリティを獲得してるともいえるのかもしれません.

 そんな風に考えていますが,いかがでしょうか?


 
ネガティブ ケイパビリティやマインドフルネスはこちら

MBOTについての総論はこちら
 

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