追体験を体験した夜

 今日は久しぶりに陽の光が街に降り注いでいます.昨日までの雨で,洗われた空気が澄んでいるように感じています.雨に降られた街は,気温が下がっています.変わりやすい気候だからか,体調もイマイチといった感じです.子どもたちも,めずらしく熱を出したりしていました.

 そんな昨晩のことでした.

「耳がかゆい」

大泣きしながら長女が訴えています.時間は,夜の9時を少し回ったところ,うちのルールではもう寝る時間です.

「耳がかゆい」

しつこく彼女は訴えます.次女もつられて泣き出す.2人で,すこしやりあったみたいです.こういう時は,眠いとき.ひとは疲れてくるとイライラして,いろんな反応を起こしてしますものです.少なくとも私自身には身に覚えがあります.

「どうしたの?なんで泣いてるの?」

長女と次女,2人の泣き声のソウルフルな共演にやややられながら,努めて冷静に問いかけます.いや,もう分かっているのです.そう,眠いのです!!

 でも,「眠いんだよね」とこの時点で言ったらどうなるでしょう?小学校1年生の長女と年中の次女,この2人は何を感じ,どんな体験をしているのでしょうか?少なくとも,眠気からくる得体のしれない,自分を突き動かしてくるイライラは感じていても,眠いんだという自覚はないでしょう.いや,むしろ眠いとは程遠い体験をしているのかもしれません.眠いときに,眠いんだと感じて眠られるには,勝手に切り替わる感情のスイッチを自分で統制できるようになる必要があるのです.

「だって,○○が・・・」

 泣きながら訴える彼女らの理由は実に他愛もないもの.いつもだったら,そのまま流れているだろうに,エネルギーが切れる前はハイテンションになりちょっとした刺激が感情爆発のトリガーになるのです.もう疲れている時はてきめんです.一生懸命泣きながら,それでも相手の声をかき消すためか大声で叫ぶ彼女らに,こちらのエネルギーも吸い取られます.犬のおまわりさんだったら,「わんわんわわん」と一緒に泣いていたことでしょう(笑)

「わかった,わかった.そう思ってんだね」

今回は長女のイライラを向けられただけの次女の話をとりあえず聞く,長女はその間も泣き叫ぶ.そこに,家事をしていた妻登場.長女のフォローへ.

「よし,とりあえず寝ようか?9時過ぎたもんね」

今日は,巻き込まれただけのため聞き分けのいい次女.あれれ,もう寝ている.さぁ,そして大物に取り掛かる.長女の方へ.

「耳がかゆい」

涙と鼻水でドロドロになった顔.時折,鼻水を強くかみながら,とめどくなあふれる涙にからだを乗っ取られているように泣く.泣く.泣く.

「アレルギーよ.目薬ならさせるよ」

妻が必死になだめている.耳がかゆいのがアレルギーなのかは不明だが,確かに長女は睡眠が足りないとアレルギー症状が強くでる.きっと,鼻水の量が大量なのは,アレルギーの影響があるのでしょう.怒りに任せて鼻をかむことが,耳に振動を与えてかゆみを感じているのではないかな?鼻と耳はつながっているんだなぁ.そんなことを,ぼんやり考えながら見ていたましたが・・・.

「耳がかゆい」

「耳はどうしようもないの」

アレルギーと決めている妻は,耳にかまわず,原因であるアレルギーに対処しようといろいろ考えていました.もちろん長女に,メカニズムを聴く余裕なんてあるわけありません.自分の耳の痒さ,それしか分からなくなっているのでしょう.そんな中,まだ家事が残っているのでしょう,妻は少しイライラが移ってきているようです.それは,そうでしょう,そのくらい長女の爆発は高いエネルギーがありました.僕も近くにいるとヤバいと思いましたし,ややイライラが心に芽生えたことを感じましたから.

「耳がかゆーい」

それでも,泣きながら訴える長女.その時ふと思い出した.夕方,やけにまとわりつく長女の姿,小学校に上がって普段あんまり寄ってこないのに,膝の上にちょこっと乗ってきていたのでした.『調子が悪かったのかもしれない.触れていたかったのかも』長女になんだか済まない気がして,こころの中で謝りました.これは,わたしの勝手な空想です.

 きっと,長女はそんな風には感じていないでしょう.ただ,訳のわからないままにこころのなかに浮かび上がってくるイライラというかモヤモヤと言うか,なんだか得体のしれない怪物(怒り)に突き動かされているのでしょう.そして,なぜかわからないし,どうしようもない「耳のかゆみ」という感覚にそれが象徴されている.彼女は,耳のかゆみを生きている.

「ちょっと,こっちにおいで」

わたしは,綿棒を用意し,彼女をギュッと抱きしめました.そして,耳掃除をしました.なるべく優しくいたわるように,そして表面を撫でるように掃除していく.そして,やや強くでもゆっくり表面を撫でていきました.そして,それをもう一度.両耳にしていきました.

「はい.できた.どう?大丈夫?」

彼女はこくんと頷きました.もう泣いてはいません.

「おやすみ」

「おやすみ」

彼女は布団に入っていきました.そして,わたしは,一緒に取っていた新しい綿棒で耳を掃除しました.なんだか耳の中がムズ痒いような気がしていたのです.娘の耳のかゆみがうつっていたのかもしれません.

 もっと早く気付いて上げられれば良かったね.ごめんね.

 




 

 

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