マインドフルネス作業療法と作業療法

 第51回日本作業療法学会が終了しました.多くの方々との再会や新しい出逢いがありました.ここに感謝の意を表します.やはり,多くのひとと語ることで,多くの刺激や知識をいただきました.そして,自分なりに考え,それについて話し合う機会も得ました.こうして知は凝集されてゆき,経験は豊かなものになっていゆきます.今後ともよろしくお願いいたします.

 さて,私事ですが,今回の学会では,モーニングセミナーとスペシャルセッションの2回の出番がありました.いずれも,マインドフルネス作業療法(MBOT)についてお話しさせていただきました.

 今回の学会を通して,多くの方にMBOTについてご興味を持っていただく機会となりましたことを嬉しく思っています.

 ところで,MBOTについて,これから何回かに分けて,お話しさせていただきたいと思います.その第1回目は,MBOTと作業療法(OT)についてです.



 今ではなくなりましたが,MBOTについて発表を始めたころ,今から5,6年前になるでしょうか?その頃には,「MBOTとOTはどう違うんですか?」という質問を多くいただきました.

 この質問に対する結論は単純で「MBOTとOTは違いません」ということです.いえむしろ,わたしは「MBOTはOTの一部である」と考えています.


 上部にある図は,MBOTとOT,そしてマインドフルネス・スキルトレーニングの関係性をイメージした図になります.作業療法で使用される作業には,①治療的に利用される運動の複合体や動作というレベルで構成されるもの,②ひとの行為のレベルで何かそのひとにとって意味のあるものというレベルで構成されるもの,があります.これらは,対象者(セラピスト)にとって作業としての質が違いますが,いずれも目的が明確にあり,その目的を達成するために実施するという面で同じとなります.
 それにくわえて作業には,ひとが行う作業そのものをそれ自体として,あるがままに行うレベルのものがあります.作業を行う目的を離れ(何のためにを置いておいて),作業それ自体を,それとしてそのまま味わうこと.それが,MBOTなのです.
 
 すなわち,MBOTは,作業の持つマインドフルネス要素に着目し実施することで,マインドフルネス・スキルトレーニングと同じような効果が得られるのです.これは,シングルシステムデザインを用いた感情調節困難患者に対するMBOTの介入研究(織田靖史, 京極真, & 西岡由江. (2015). 感情調節困難患者へのマインドフルネス作業療法の効果検証: シングルシステムデザインを用いて. 精神科治療学30(11), 1523-1531.)でも明らかになっています.

 上記の研究では,感情調節困難患者と診断された8名に,マインドフルネス・スキルトレーニングとMBOTを実施したという論文です.これの結果は,MBOTはマインドフルネス・スキルトレーニングよりも良い効果があること,少なくとも同じくらいの効果が得られること,などがわかりました.

 では,どうしたら作業をそれ自体として行うことができるのか?

 それは,単に作業に取り組むことです.それをやってどうなるとか?何のためにするとか?以前にそれをやった時にどんなだっとか?上手くできないとか?いろいろ出てくる,過去の出来事の反芻や未来への不安は置いておき,とにかくその作業をやってみるのです.そしてその作業に身体を預け,それからあふれ出す身体感覚を受容し続けるのです.感じるままに感じ,それをそのまま受け入れる.作業の結果ではなく,そのプロセスを味わうようにするのです.

 だから,MBOTはOTの対極ではなく,その一部なのです.そして,それはついつい忘れがちな作業療法の一部分,でもとっても大切な側面に光を当てるべくそこに存在します.そういった特徴のあるMBOTだからこそ,なかなか困難な生きづらさを持つ方にお役にたてる可能性を秘めているのではないかと思います.なぜ,そうなのかについては,次回以降に述べたいと思います.

 その世界観が知りたい方は,次のような書籍がお勧めです.




 いずれMBOTについて,その世界観も含めてお話しする機会があればいいなと思っています.では,今回はこのあたりで失礼いたします.
 

 

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