治療(予防)などの介入パッケージ,または生きることへの支援におけるMBOTの役割

 第1話として「マインドフルネス作業療法と作業療法」(詳細はこちら),第2話として「今を感じるための方法 -MBOTを通して-」(詳細はこちら)をご紹介しました.それに続く今回は,第3話となります.そのテーマは,「治療(予防)などの介入パッケージ,または生きることへの支援におけるMBOTの役割」です.

 今回は,なんだか壮大なテーマであるように感じますが,はてさて,どうなることでしょう(笑)といっても,内容はいたって単純です.MBOTは,他の治療法や予防法,支援方法とどう言った関係にあるのか?ということをお話しします.


 MBOTは,単独で実施することよりも,他の介入法などと組み合わされてパッケージで行うことは推奨されています.
 そのことは,以前のBlog記事マインドフルネス作業療法から考える作業療法と瞑想」詳しくはこちら)で下図のようにまとめています.



 それは,わたしたちの研究においても効果が実証されており,今学会の演題発表感情調節困難患者に対するMBOTパッケージプログラム実施時の主観的体験の変化の検討」において明らかにしています.この発表では,通常の(精神科)作業療法(以下,OT)やマインドフルネス・スキルトレーニング(MST)と組み合わせた,MBOTパッケージプログラム(MBOTパッケージ)(※今回は,MBOTとOT(フィンガーペインティング)とMST(呼吸瞑想)を実施しました)について,仮説の正しい確率が直接表せるベイズモデルを用いて明らかにしました.(詳細はこちら

      

 また,同じく今学会のモーニングセミナーでは,トータルペインの視点を精神科で用いる意義」というテーマで,MBOTと具体的なソーシャルサポート等を組み合わせてトータルペインに対して介入したケースについてお話しさせていただきました.
(※今回は,作業療法ジャーナル(作業療法ジャーナル Vol.51 No.9)の「特集 緩和ケアを通じてみる作業療法の世界」で書かせたいただいた内容を中心にお話しさせていただきました)

                (こちらに掲載されています)

       

 
当たり前の生活を守るために,MBOTを続けながら,そのひとが持つそのひと自身の希望の実現のために,本人,家族を含めたチームが動きました.そのひとの当たり前の生活にMBOTが象徴されていました.それと同時に,そのひとは他の人の力を借り,自分の命を感じながら,生を全うしたのでした.MBOTは,単独ではなく,本人の希望の実現のためのプロジェクトと当たり前の生活に対するソーシャルサポートと共に,本人と共にあり,その生き様を支えました.と言ったお話をしました.

 このようにMBOTは,実践的にもパッケージで行われています.MBOTは決して万能ではなく.他の治療法より唯一優れているわけでもありません.しかし,作業の持つマインドフルネス要素に着目し,作業の持つ潜在的なひとに対する影響(パフォーマンス)を引き出すMBOTという手法は,ひとを何かとくっつける,ひとを周囲(環境)と「縁」で結ぶ,差し出された手に手をつなげるようにする.という意味で,人を救う可能性を秘めていると思っています.

 パソコンを考えてみてください.作業療法界では,OBP2.0や人間作業モデル,カナダ作業モデル,川モデルなどの理論があり,医学に目を向けるとより多くの理論や介入法があります.われわれは,そのような何らかの理論に基づいて日々の臨床を行っているのですが,それらの理論をOSとして考えてみます.そして,その様な理論に基づく具体的な介入方法をソフトとします.もちろん,ソフトやOS,そしてハードであるパソコンとしてのひと自身がしっかりしていないと上手くいきません.しかし,それらが正常でも,ウイルスに感染していると,パソコンは期待されるパフォーマンスを発揮できません.それどころか,機能しなくなります.まさに生きているのに死んでいるような動きをなくした状態,キルケゴールの言う「死に至る病」である「絶望」に支配されたような状態になるのです.その場合,作業をすることは,リアルな現実と対峙するため,かえって切望しているひとを苦しめることになります.キルケゴールは,「絶望」には「可能性を持ってこい」といっていますが,その可能性をもたらすものが「作業」であるというのは,想像できるところでしょう.ひとは,何かをする,何かをできる,何かしたいと思える,ことで可能性を見出し,絶望の淵から救われるのだろうと考えます.

 しかし,いきなり「作業」を行おうと思っても,「絶望」しているひとにその光は届かない.そんなときに,「作業」を味わうのです.ただ,「今」ここにいて,ただ「今」行っていることを味わうのです.そうして,作業をすることで,日常を日常として送ることで,そのための作業を紡ぐことで,ひとは自分らしさを取り戻し,作業の光を浴び,周りから差し伸べられる手に自分の手をつなごうと思えるようになるのです.

 私たちの研究(織田靖史, 京極真, 西岡由江, & 宮崎洋一. (2017). 感情調節困難患者がマインドフルネス作業療法 (MBOT) を実施した際の内的体験の解明. 精神科治療学32(1), 129-137.)でも明らかにされています.

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その結果は,以前にもブログで紹介していますが,①導入されたMBOTへの反応,②治療的な反応,③在り方の探索という,3つのフェーズがあること,そして,それぞれのフェーズでネガティブな要素とポジティブな要素という対立する要素を含むこと,対象者はその対立する要素の間を揺れ動きながら次のフェーズへと止揚し,最終的には実存的変化に至ること.が分かっています.

 この結果からも,MBOTは効果は,単に問題を解決することではなく,実存的変化によって世界との関係性が変化することであると言えるのかもしれません.そうして,手をつなげるようになると同時に,具体的な手法を持ってサポートすることが効果的であると言えるでしょう.

 そのひとの在り方,そしてそのひとと世界の関係性を調整し,それと同時に具体的な環境調整,本人への介入・サポート,周囲への介入・サポートを行うというパッケージが有効であると考えられます.

 したがって,MBOTは何かと対局する手法ではなく,何かと共に生きる,何かを活かす,という手法であると言えるでしょう.究極の黒子といえるのかもしれません.わたしの理想の生き方です.

 それにしても,MBOTのようにありたいなぁ~


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