今を感じるための方法 -MBOTを通して-

 第1回目の前回は,マインドフルネス作業療法と作業療法について書きました.(第1回の記事はこちらへ)2回目の今回は,マインドフルネス作業療法には,どんな効果があるのかということについて述べたいと思います.


 最近,京極先生のblogで「鉄板ルール」という記事が公開されました(元記事はこちらへ).その記事の中で,『過去でも未来でもなく「今」を生きよう』ということが提案され,奥さんのコメントから『昆虫的生』が提案されています.

 こころ楽しく生きたい人にとっては「過去は忘れる、未来は想像しない」が鉄板ルールになってくるわけです。(京極先生のblogより引用)

 まさにそうですね.過去にとらわれても,未来に脅かされても,ひとは安心して自分らしく生きることはできません.では,どうするのか?そこで『鉄板ルール』=「今」を生きるということになります.

 これは,本当に鉄板ルールで2600年くらいの歴史があります.そのルールに人類で初めて気づいたのが,実はブッタだったのです.その時代から,2600年脈々と受け継がれて,「今」この時代に再び注目されています.

 それだけ「今」が,様々な価値や規範が変わり,依るべきもの(自分の存在のよりどころ)が失われている時代なのかもしれません.まぁ,なぜ「今」再び「今」なのかの考察は他の回に譲ることにして(?),今回はどうしたら「今」に居られるのか?とどまれるのか?ということについて,マインドフルネス作業療法(MBOT)の観点からお話したいと思います.

 MBOTは,作業療法のマインドフルネス要素に注目します.そのマインドフルネスは,漢字では「念」と書かれるように,「今」に「心」をとどめ置いておくことがポイントとなります.「今」あるものを,「今」自分の中(こころ=主観)に立ち現われてくるその物自体をあるがままにそのまま受け止め,受け入れるのです.その際に,自分で断定したり,価値判断せずにそのまま,感じたものを感じたままにしておきます.したがって,慌てて言葉にはせず,十分にそれ自体を味わって,何か言葉が残った時にその言葉で自分の体験を言い表し,経験とするのです.山根先生はこの言葉で体験を言い表すことを「言葉で括る」(山根,2013)と表現されていますが,まさにそんな感じで自分の感覚,体験を言葉で括るのです.

(参考:言葉で括ることなど,臨床で作業療法を行う上で参考図書)






 このように,MBOTでは,「今」まさに自分の中に立ち現われている感覚をそのまま感じることで,「心=意識(注意)」を「今」にとどめておくようにします.「今」この瞬間にあなたが感じているもの,それに注目することで,「過去」でも,「未来」でもなく,「今」に自分がとどまることができるのです.(なぜ「今」にとどまることが必要なのかは,前出の京極先生のblog記事をご参照ください.)

 それでもひとは,「過去」や「未来」に意識を向けることがある.「過去」のことをふと思い出したり,「未来」のことをぼんやりと考えたりします.ひとは,何もしていない時,いわゆるぼんやりしている時にも,Default Mode Networkデフォルトモード・ネットワーク)という脳内のネットワークが活動しています.これは,車に例えるとエンジンのアイドリングのような状態で,動いてない時にも準備として活動しているのです.そして,このDefault Mode Networkの時に,脳は「過去」の記憶や「未来」の予測を行いやすいということが分かっています.すなわち,ボーとしたときに,それは起こりやすいのです.

 「作業活動」をもちいるMBOTでは,前頭前皮質が賦活されることが分かっています.(「近赤外分光法を用いた前頭前野の酸化ヘモグロビン量の 比較によるマインドフルネス作業療法の効果 ─マインドフルネス作業療法とマインドフルネス・ スキルトレーニング,精神科作業療法の比較─」織田靖史,京極真,平尾一樹,宮崎洋一 日本臨床作業療法研究 No.3:26−32,2016)そして,作業遂行による前頭前皮質を中心としたSalience Networkが賦活されると,Default Mode Networkが抑制されます.このことから,MBOTでは「過去」や「未来」へと意識が向かいがちなDefault Mode Networkを抑制することが考えられます.これは,MBOTを「(意識=注意の)集中」の観点から見た効果です.(MBOTでは,その後意識=注意を開いていくことを行います.それが,適度に調整されたDefault Mode Networkの状態につながるのではないかと考えていますが,それについては今後の研究課題です.どなたか,一緒に研究していただけませんか??)

 このように,MBOTとして作業を用いるということ,すなわち「何か作業をするときに自分の身体感覚を意識して,何か作業活動に取り組み,その時に感じるものをあるがままに受け止める」というこということが「今」にとどまる有力な手段であることが分かります.

 しかし,やっている中で,どうしても「過去」や「未来」に意識が向くことがあります.「昔はこうだったのに・・・」「あの時はああだった・・・」「これをしてどうなるのか?」「こんな感じでいいのか?」「あっ,これはこうじゃないか??」「この意味はこういうことだろう??」直接,「過去」や「未来」にいくことや,「過去」や「未来」の経験や思考を用いて「今」を限定し「過去」や「未来」で色付けされた自分のイメージに置き換えるという間接的なものもあります.そして,それは「ふとした瞬間」にあたまの中に勝手に浮かんでくるので,回避することは困難です.ほぼ無理といっていいでしょう.では,そういった中で,「今」にとどまるためにはどうしたらいいのか?

 結論を言うと,「・・・と思った」「~~~と考えた」と「過去」や「未来」の思考や感覚などを十分に体験した後に,言葉で括るのです.これは,マインドフルネス,そのもととなるヴィパッサナー瞑想の手法です.

 例えば,「昔はこうだった・・・」という思いが自分の中に立ち現われてくると,その自体やそれによってもたらされる感覚などに身を浸し,それ自体を十分に味わったうえで,それは自分の中に現れた「考えだ」「思いだ」「記憶だ」といった認識が残ったら,それをつかって,「昔はこうだった・・・,と考えた(思った,思い出した)」というように言葉に置き換え,言葉で体験を括るのです.

 「昔はこうだった・・・」という事柄の「内容」は,確かに「過去」のことでしょう.しかし,その事柄と出逢い,それを体験している,それ自体は「今」まさにその「瞬間」のことなのです.

 このように,MBOTは「作業活動」と「現象それ自体を味わい,言葉で括る」ことで,「今」を生きることを支えます.ということを考えています(笑)

参考:MBOTについて書かれている書籍(雑誌は除く)


 

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